更新日:2024.04.18
Updated: 2024.04.18
今週のうなぎセミナーについてお知らせいたします。
Here is information of the Unagi-seminar(June, 13).
************** Seminar on Seismology IV A, C /地震学ゼミナールIV A, C (Unagi Seminar) **************
科目:地震学ゼミナールIV A, C / Seminar on Seismology IV A, C(修士・博士)
日時:2024年 6月 13日 (木) 13:30~
場所:京都大学 防災研究所 本館E-232D
Date and Time:2024-06-13, 13:30~
Place:Uji Campus Main Building E232D
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Speaker(発表者)1: Akifumi Takayama
Title(題目):
Attempt to estimate seismic heterogeneous structures around deep slow-earthquake areas in southwest Japan using multi-band receiver functions
(高周波数帯を含むレシーバ関数による西南日本深部スロー地震域周辺における不均質構造推定の試み)
Abstract(要旨):
南海沈み込み帯の深部スロー地震活発域と非活発域における不均質構造の違いを,マルチバンドレシーバ関数解析 (e.g., Sawaki et al., 2021) を用いて検討する.
同規模の地震に対して低周波成分が卓越する地震をスロー地震と呼ぶ.スロー地震の発生域周辺には様々なスケールの不均質構造の存在が指摘されている.例えば,沈み込む海山 (e.g., Sun et al., 2020) や,深部流体 (e.g., Kato et al., 2010),堆積層厚 (e.g., Akuhara et al., 2020) などの空間変化が報告されている.しかし,これらの研究はスロー地震発生の十分条件に着目したもので,スロー地震発生の必要条件には言及していない.特に,スロー地震の活動度と地震波速度構造の空間変化に言及した研究は少なく,どのような地下不均質構造がスロー地震の発生を支配するか,未だ明らかになってない.
そこで本研究では,四国の深部スロー地震発生域におけるマルチバンドレシーバ関数解析により,深部スロー地震活発域と非活発域における地震速度構造の違いの理解を目的とする.レシーバ関数は,遠地地震の変換波の抽出を通して S 波速度不連続面を検出する手法である.本研究ではレシーバ関数の計算方法として,繰り返しはぎ取り法 (Kikuchi and Kanamori, 1982) を用いて計算し,BIC (Schwarz, 1978) 最小を計算終了条件とする時間領域レシーバ関数解析 (Ruan et al., 2023) を使用した.使用周波数帯域は,理論波形による解像度試験より,≤ 0.6 Hz および ≤ 2.0 Hz とした.
その結果,深部スロー地震活発域と非活発域では,海洋モホ面やその周辺で変換するレシーバ関数シグナルの特徴に違いが見られた.シグナルの特徴を説明する不均質構造の理解のため,RAYSUM (Frederiksen and Bostock, 2000) と OpenSWPC (Maeda et al., 2017) を用いて理論波形とそれに基づくレシーバ関数を求めた.本発表では,観測波形と理論波形双方のマルチバンドレシーバ関数の結果に基づき,四国における深部スロー地震活発域と非活発域における不均質構造の違いや,その成因について議論する.
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Speaker(発表者)2: Yohei Nozue
Title(題目):
能登地域の歪み速度場に対する2011年東北沖地震の影響
Abstract(要旨):
2020年11月以降、能登半島では地殻変動や群発地震が発生していた。地震波速度や電気抵抗率の分布から、下部地殻に流体が存在したことが示唆されている(Nakajima, 2022 ; Yoshimura et al, 2022, SGEPSS)。流体が下部地殻から地震発生域まで上昇したことで地殻が変形し、また間隙水圧の増加による断層強度の低下に伴って群発地震が引き起こされたと考えられている。しかし、流体上昇の原因については、これまでほとんど議論されていない。そこで本研究では、2011年東北沖地震の前後の期間について歪み速度場を推定し、その時間変化を見ることで、群発地震以前の期間における流体上昇の原因を考察する。
GNSSデータには、中部日本における国土地理院F5解の日々の座標値を用いた。解析期間として、東北沖地震の前後4つの期間(2003-2006, 2008-2010, 2012-2015, 2016-2019)を設定した。各観測点について、変位の時系列データから季節変動・地震時変位・観測点メンテナンスの影響を除去した上で、それぞれの期間における平均変位速度を算出した。東北沖地震後の変位速度データでは、東北地方から近畿地方にわたる広い地域において、余効変動による東向きの変動が生じていることが確認できる。
Okazaki et al. (2021) と同様に、変位速度場の空間平滑性を先験情報として課すL2正則化法(Yabuki and Matsu’ura, 1992)を用いて、歪み速度場を推定した。変位速度場の2階微分のL2ノルムの項を変位速度の残差2乗和の項に加えた目的関数を最小化することで、モデルパラメータを求めた。両者の項の比重は超パラメータを用いて規定し、その値はABIC最小の規準により決定した。
推定された歪み速度場は、東北沖地震の前後で大きく異なる。東北沖地震以前の期間では能登地域周辺は短縮場であったのに対し、地震後には伸張場に転じている。このことから、東北沖地震の余効変動により、能登地域が東西方向に引き伸ばされたと考えられる。また、伸張速度が時間とともに減衰していく様子も確認できる。東北沖地震後に能登地域周辺が伸張場になったことで、地殻内の流体が上昇しやすくなったと考えられる。
得られた歪み速度場をもとに、東北沖地震後の4-9年間で流体が地下30 km(モホ面付近)から地下15 km(地震発生域の下部)まで上昇したと仮定し、流体の拡散係数を求めた。Shapiro et al. (1997)に基づくと拡散係数は0.06-0.14 m2/sとなり、地下浅部における拡散係数(0.1-10 m2/s)と同程度か小さい値が得られた。流体上昇の原因として、以下のシナリオが考えられる:
流体がモホ面付近に蓄積され、流体圧が定常的に増加する。
東北沖地震後に能登地域周辺が伸張場に転じたことで、岩石の圧力が減少する。
が減少することで、流体上昇が容易になる。
地震発生域にまで到達した流体が間隙水圧を増加させ、群発地震を引き起こす。
以上のように、2011年東北沖地震の余効変動が流体の上昇を容易にし、能登半島における群発地震を引き起こしたと考えられる。
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今週のうなぎセミナーについてお知らせいたします。
Here is information of the Unagi-seminar(June, 13).
************** Seminar on Seismology IV A, C /地震学ゼミナールIV A, C (Unagi Seminar) **************
科目:地震学ゼミナールIV A, C / Seminar on Seismology IV A, C(修士・博士)
日時:2024年 6月 13日 (木) 13:30~
場所:京都大学 防災研究所 本館E-232D
Date and Time:2024-06-13, 13:30~
Place:Uji Campus Main Building E232D
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Speaker(発表者)1: Akifumi Takayama
Title(題目):
Attempt to estimate seismic heterogeneous structures around deep slow-earthquake areas in southwest Japan using multi-band receiver functions
(高周波数帯を含むレシーバ関数による西南日本深部スロー地震域周辺における不均質構造推定の試み)
Abstract(要旨):
南海沈み込み帯の深部スロー地震活発域と非活発域における不均質構造の違いを,マルチバンドレシーバ関数解析 (e.g., Sawaki et al., 2021) を用いて検討する.
同規模の地震に対して低周波成分が卓越する地震をスロー地震と呼ぶ.スロー地震の発生域周辺には様々なスケールの不均質構造の存在が指摘されている.例えば,沈み込む海山 (e.g., Sun et al., 2020) や,深部流体 (e.g., Kato et al., 2010),堆積層厚 (e.g., Akuhara et al., 2020) などの空間変化が報告されている.しかし,これらの研究はスロー地震発生の十分条件に着目したもので,スロー地震発生の必要条件には言及していない.特に,スロー地震の活動度と地震波速度構造の空間変化に言及した研究は少なく,どのような地下不均質構造がスロー地震の発生を支配するか,未だ明らかになってない.
そこで本研究では,四国の深部スロー地震発生域におけるマルチバンドレシーバ関数解析により,深部スロー地震活発域と非活発域における地震速度構造の違いの理解を目的とする.レシーバ関数は,遠地地震の変換波の抽出を通して S 波速度不連続面を検出する手法である.本研究ではレシーバ関数の計算方法として,繰り返しはぎ取り法 (Kikuchi and Kanamori, 1982) を用いて計算し,BIC (Schwarz, 1978) 最小を計算終了条件とする時間領域レシーバ関数解析 (Ruan et al., 2023) を使用した.使用周波数帯域は,理論波形による解像度試験より,≤ 0.6 Hz および ≤ 2.0 Hz とした.
その結果,深部スロー地震活発域と非活発域では,海洋モホ面やその周辺で変換するレシーバ関数シグナルの特徴に違いが見られた.シグナルの特徴を説明する不均質構造の理解のため,RAYSUM (Frederiksen and Bostock, 2000) と OpenSWPC (Maeda et al., 2017) を用いて理論波形とそれに基づくレシーバ関数を求めた.本発表では,観測波形と理論波形双方のマルチバンドレシーバ関数の結果に基づき,四国における深部スロー地震活発域と非活発域における不均質構造の違いや,その成因について議論する.
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Speaker(発表者)2: Yohei Nozue
Title(題目):
能登地域の歪み速度場に対する2011年東北沖地震の影響
Abstract(要旨):
2020年11月以降、能登半島では地殻変動や群発地震が発生していた。地震波速度や電気抵抗率の分布から、下部地殻に流体が存在したことが示唆されている(Nakajima, 2022 ; Yoshimura et al, 2022, SGEPSS)。流体が下部地殻から地震発生域まで上昇したことで地殻が変形し、また間隙水圧の増加による断層強度の低下に伴って群発地震が引き起こされたと考えられている。しかし、流体上昇の原因については、これまでほとんど議論されていない。そこで本研究では、2011年東北沖地震の前後の期間について歪み速度場を推定し、その時間変化を見ることで、群発地震以前の期間における流体上昇の原因を考察する。
GNSSデータには、中部日本における国土地理院F5解の日々の座標値を用いた。解析期間として、東北沖地震の前後4つの期間(2003-2006, 2008-2010, 2012-2015, 2016-2019)を設定した。各観測点について、変位の時系列データから季節変動・地震時変位・観測点メンテナンスの影響を除去した上で、それぞれの期間における平均変位速度を算出した。東北沖地震後の変位速度データでは、東北地方から近畿地方にわたる広い地域において、余効変動による東向きの変動が生じていることが確認できる。
Okazaki et al. (2021) と同様に、変位速度場の空間平滑性を先験情報として課すL2正則化法(Yabuki and Matsu’ura, 1992)を用いて、歪み速度場を推定した。変位速度場の2階微分のL2ノルムの項を変位速度の残差2乗和の項に加えた目的関数を最小化することで、モデルパラメータを求めた。両者の項の比重は超パラメータを用いて規定し、その値はABIC最小の規準により決定した。
推定された歪み速度場は、東北沖地震の前後で大きく異なる。東北沖地震以前の期間では能登地域周辺は短縮場であったのに対し、地震後には伸張場に転じている。このことから、東北沖地震の余効変動により、能登地域が東西方向に引き伸ばされたと考えられる。また、伸張速度が時間とともに減衰していく様子も確認できる。東北沖地震後に能登地域周辺が伸張場になったことで、地殻内の流体が上昇しやすくなったと考えられる。
得られた歪み速度場をもとに、東北沖地震後の4-9年間で流体が地下30 km(モホ面付近)から地下15 km(地震発生域の下部)まで上昇したと仮定し、流体の拡散係数を求めた。Shapiro et al. (1997)に基づくと拡散係数は0.06-0.14 m2/sとなり、地下浅部における拡散係数(0.1-10 m2/s)と同程度か小さい値が得られた。流体上昇の原因として、以下のシナリオが考えられる:
流体がモホ面付近に蓄積され、流体圧が定常的に増加する。
東北沖地震後に能登地域周辺が伸張場に転じたことで、岩石の圧力が減少する。
が減少することで、流体上昇が容易になる。
地震発生域にまで到達した流体が間隙水圧を増加させ、群発地震を引き起こす。
以上のように、2011年東北沖地震の余効変動が流体の上昇を容易にし、能登半島における群発地震を引き起こしたと考えられる。
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© Research Center for Earthquake Hazards.
© Research Center for Earthquake Hazards.