更新日:2024.04.18
Updated: 2024.04.18
今週のうなぎセミナーについてお知らせいたします。
Here is information of the Unagi-seminar(October, 17).
************** Seminar on Seismology IV B, D /地震学ゼミナールIV B, D (Unagi Seminar) **************
科目:地震学ゼミナールIV B, D / Seminar on Seismology IV B, D(修士・博士)
日時:2024年 10月 17日 (木) 13:30~
場所:京都大学 防災研究所 本館E-232D
Date and Time:2024-10-17, 13:30~
Place:Uji Campus Main Building E232D
---------- ---------- ---------- ----------
Speaker 1: Akifumi TAKAYAMA
Title:
南海トラフ沈み込み帯におけるプレート境界周辺の S 波速度異常域と深部テクトニック微動活動の空間変化との関係
Abstract:
本研究では,理論波形と観測波形のレシーバ関数 (RF) の計算を通じて,南海トラフ沈み込み帯における地震波速度異常域と深部テクトニック微動活動の空間変化との関係を調べることを目的とする.南海トラフ沈み込み帯では,テクトニック微動の放射エネルギー分布の空間変化が観測されている.これまでの研究から,テクトニック微動の発生要因の一つに,S 波速度異常として反映される流体の存在が示唆されている.しかし,プレート境界付近の詳細な S 波速度異常域の分布と,広範囲にわたるテクトニック微動活動の空間変化について言及した研究は少ない.また,テクトニック微動域周辺の詳細な S 波速度異常域の分布について,3次元的な S 波速度異常の分布を考慮した理論 RF と,観測 RF の両者を用いて論じた研究も少ない.したがって,このような研究は,深部スロー地震の発生メカニズムの解明に不可欠である.
南海トラフ沈み込み帯における S 波速度異常域の分布とテクトニック微動活動の空間変化を定量的に評価するため,本研究では遠地地震の直達 P 波到達前後の波形にマルチバンド RF を適用した.マルチバンド RF では,プレート境界面付近の S 波速度の大局的な構造と詳細な構造の両方の情報が得られる.本研究では RF の計算に時間領域反復デコンボリューション法を適用した.この手法においては,ベイズ情報量規準の最小化をイタレーションの終了条件として用いる利点が示されており (Ruan et al., 2023),本研究でもそれに従った.
はじめに,プレート境界付近における観測 RF シグナルの振幅,到達時間,およびそれらの back azimuth 依存性などの特徴と,テクトニック微動活動の空間変化との関係について詳細に調べた.その結果,観測波形から海洋モホ面,大陸モホ面や海洋地殻の低速度帯に関連する RF シグナルを検出した.また,マルチバンド RF の形状の変化は,深部テクトニック微動活動の空間変化と対応する可能性がある.
次に,深部テクトニック微動域直上での観測 RF を説明するプレート境界面周辺の S 波速度異常域の分布を推定するために,理論波形から求めた理論マルチバンド RF と観測 RF を比較した.理論波形の計算には波線理論に基づく手法 (RAYSUM) および3次元有限差分法 (OpenSWPC) を用いた.観測 RF と理論 RF の両方から,深部テクトニック微動活動の空間変化を制約する S 波速度異常や,その分布についても議論を行う.
Speaker 2: 船曵 祐輝
Title:
DAS記録のS/P振幅比による震源メカニズム推定―サイクルスキップを伴う場合―
Estimating Focal Mechanisms Using S/P Amplitude Ratios from DAS Records: A Case of Phase Cycle Skipping
Abstract:
分布型音響センシング、通称DASとは、光ファイバーケーブル内を伝播するレーザー光の後方散乱の位相を測定し、地震波動場によってケーブルに引き起こされる軸ひずみあるいはひずみ速度を計測する新技術であり、近年地震観測にも応用され始めている。DASにおいては、ケーブル自体が歪計として機能し、ケーブル沿いの任意の区間を歪計と同等に扱える。このために、地震計を設置することなく、超高密度に地震波動場を捉えることが可能であり、様々な地震学的観測に応用されることが期待されている。例えば、震源メカニズムによる節線がケーブルのどこを通っているかがDAS観測により判明すれば、従来の地震観測よりはるかに精密に震源メカニズムの推定が可能である。これを利用し、Li et al., 2023では、隣り合う観測チャネルの地震波形同士で相互相関を取ってP波の初動極性を求めることで、震源メカニズムをDAS記録から求めた。ただし、彼らの手法を活用するためには、近傍の観測点で、DASによってP波の波形が明瞭に記録できるほどの複数の地震が発生する必要がある。また、用いるのはP波の極性のみである以上、彼らの手法で分かるのはあくまで「ケーブルのどこを節面が通るか」のみであり、2つある節面がいずれも同定されるか否かは、震源とケーブルの位置関係に依存してしまう。
我々はDAS記録におけるP波とS波の最大振幅比を用いて、単独の地震記録から震源メカニズムを推定した(船曵・宮澤, 2024, JpGU)。国道9号沿いに設置された光ファイバーケーブルを用いてDAS観測を、ゲージ長・空間サンプリング間隔をともに約5m、時間サンプリング間隔を500Hzとして行った。その結果、2022年10月19~20日に京都西山断層帯にて発生した地震がDASにより観測された。観測された地震波形のうち、P波・S波がいずれも明瞭に記録されており、全てのチャネルでサイクルスキップを起こしていない、10月19日の11時54分に発生したM2.2の地震と、同日15時34分に発生したM2.3の地震 (以下、M2.2、M2.3と呼称)からP波・S波それぞれの最大振幅を計測し、得られた最大振幅の比を最もよく説明する震源メカニズム解をグリッドサーチによって求めた。同時に、従来の地震観測点によるP波の初動極性を手動ピッキングにより得た。その結果、DAS記録のSP振幅比による震源メカニズムは左横ずれ型となり、これは従来の地震観測点によるP波の初動極性と極めてよく一致した。
本研究では、サイクルスキップが含まれる場合の対処方法の検討と震源メカニズム推定を行った。DASは後方散乱の位相を測定しているため、-πから+πまでしか測定できず、DASの生記録における最大振幅が実際の最大振幅と一致するとは限らない。仮にこれ以上の位相変化を求めるためには±2nπの補正(アンラップ)が必要である。
2022年の観測により記録された地震波形のうち、10月19日の11時00分に発生したM3.2の地震と、同日11時02分に発生したM3.4の地震は、少なくとも1000点の観測チャネルにおいてサイクルスキップを起こしていることが判明しており、船曵・宮澤(2024)の振幅比による震源メカニズム決定の手法をただ導入するだけでは、震源メカニズムは推定できない。そこで、サイクルスキップを起こしたチャネルを除外し、残りのチャネルから震源メカニズムを推定することとした。
サイクルスキップを起こしたチャネルの同定は次のように行った。まず、各チャネルのS到達時刻の0.5秒前から2秒後の記録に対し、連続する時刻の間でπ以上の位相差が発生している時刻をサイクルスキップが発生している時刻の候補とした。これらの候補を有するチャネルのうち、連続する時刻の間で、後の時刻が前の時刻に比べて+π以上跳ぶ、「正の位相のサイクルスキップ」と、後の時刻が前の時刻に比べて-π以下の跳びが発生する「負の位相のサイクルスキップ」が両方存在し、なおかつ「正の位相のサイクルスキップ」と「負の位相のサイクルスキップ」の時刻の時刻差の最小値が、サイクルスキップの候補が一切ないチャネルの見かけの半周期の最大値を下回るチャネルについて、サイクルスキップを起こしているものと見なし、除外した。上記の要領で除外されたチャネルを除くチャネルのDAS記録について、M2.2やM2.3の地震に対し適用したのと同様に、実体波振幅比から震源メカニズムを推定し、P波の初動分布と比較した。その結果、M3.2、M3.4いずれの地震についても左横ずれ型の震源メカニズムを示した。これは、この地域における典型的な地震活動であり、従来の地震観測点のP波初動極性による震源メカニズムとも一致した。
Speaker 3: Kai Koyama
Title:
統計モデルを用いた大地震前の前震活動加速現象に関する全世界的調査
Global investigation of foreshock acceleration prior to large earthquakes
Abstract:
大地震の前駆現象に関する研究は、地震の予測可能性を議論する上で極めて重要である。特に、大地震前に発生する前震活動は、これまで活発に研究されてきた。例えば、Bouchon et al. (2013)は、環太平洋のプレート境界で発生する大地震多くで、その直前に前震発生数が加速度的に増加したと主張した。また、Nishikawa & Ide (2018)は、2008年に茨城県沖で発生したM6.9のプレート境界地震の数日前に、加速的な前震の群発活動があったと報告している。さらに、数値シミュレーションや室内岩石実験においても、大地震の直前に前震発生数が加速度的に増加することが示唆されている(McLaskey, 2019; Ito & Kaneko, 2023など)。しかし、Bouchon et al. (2013)に関しては、地震活動のクラスタリングの影響を十分に考慮できていないことなどが、その後、批判されている(Felzer et al., 2015)。また、Nishikawa & Ide (2018)も、解析対象が茨城県沖の地震活動に限られており、同様の加速現象が、他の大地震においてどの程度一般的であるのかは不明である。
そこで、本研究では、世界標準の地震活動統計モデルであるETASモデル(Ogata, 1988)を用いて、大地震前の前震活動について全世界的調査を実施した。前震活動を評価するために、数値シミュレーションや岩石実験の結果を参考に、大地震前の前震活動の加速を表す項(=L/(Teq - t + d)q)をETASモデルに新たに加えた。この項は、逆大森則に類似しており、大地震(本震)発生時刻に至るまでの地震発生レートの加速を記述する。ここで、tは時刻、Teqは本震発生時刻、L, d, qは新たなモデルパラメータである。
さらに、本研究では、上記のモデルに基づき、前震活動の特徴を定量化する新たな指標を定義した。まず、地震発生時刻における地震発生レート(定常な背景レート、余震発生レート、前震発生レートの合計)のうちの前震項の割合を評価することで、「前震確率」(各地震が前震項から生じた確率)を定義し、それを各地震に対して計算した。次に、計算された前震確率が50%を上回る地震を前震と定義し、その個数を「前震個数」とした。また、本震発生時刻から遡り、全前震の半数が含まれる期間を「前震50%期間」と定義し、前震活動を特徴づける時定数とみなした。以降の解析では、前震個数と前震50%期間を用いて、前震活動を定量化する。
本研究では、上記の新たなモデルと指標を、ANSS地震カタログに記載されている、2000年から2024年に発生した全世界のM6.5以上の大地震(366個)に適用した。具体的には、大地震の震央から100km以内で、大地震前の10年以内に発生したM4.5以上の地震の活動を解析した。ここで、解析対象とは別の大地震の余震活動による影響を排除するため、Maeda (1996)の余震活動継続時間に関する式を用いて、対象の大地震が、それよりも大きな地震の余震活動期間内に発生していた場合は、解析から除外した。
その結果、366個の大地震のうち、18個(約4.5%)の大地震の前に、前震活動の加速現象と解釈できる活動が観察された。ここでは、前震個数が5個以上、前震50%期間が10日未満となった前震活動を、顕著な加速を示すものと評価した。例えば、Nishikawa & Ide (2018)で解析された、日本海溝沈み込み帯における2008年の茨城県沖の地震や、2008年にバヌアツ沈み込み帯で発生したM7.3のプレート境界地震は、特に顕著な前震活動の加速を示した。2008年の茨城県沖の地震は前震個数15個、前震50%期間0.025日を記録し(L=0.42, d=0.042日, q=2.1)、2008年のバヌアツの地震は前震個数10個、前震50%期間0.05日を記録した(L=0.73, d=0.061日, q=1.7)。また、バヌアツ沈み込み帯では、前震活動の加速現象と解釈できる現象が、他にも多数見られた。
上記の解析に加えて、地震活動の加速現象が大地震前に特有の現象であるか検証するために、小地震前の地震活動に対しても同様の解析を現在実施している。また、加速現象の偶然性を評価するため、ETASモデルから合成された地震カタログに対しても同様の解析を実施予定である。
以上のように、本研究は、前震活動の特徴を定量化し、評価するための新たな解析の枠組みを提案するとともに、全世界の前震活動の特徴を明らかにするものである。
Speaker 4: Ryo Yoshimura
Title:
房総半島沖における群発地震検出と小規模なスロースリップとの関連の調査
Detection of earthquake swarms off the Boso Peninsula and investigation of the association with small slow slip events
Abstract:
・はじめに
明確な本震を伴わない地震発生レートの増加を群発地震と呼ぶ(e.g., Mogi, 1963)。群発地震は、火山活動が活発な地域や沈み込み帯、トランスフォーム断層など、陸海域問わず様々な場所で発生する。群発地震は、地殻流体の移動やスロースリップイベント(SSE)等の過渡的な非地震性現象によって引き起こされるとされ(e.g., Nishikawa & Nishimura, 2023)、群発地震の検出は、非地震性現象と地震活動の関係を明らかにする上で重要である。
本研究は、ETASモデル(Ogata, 1988; Okutani & Ide, 2011)と赤池情報量規準(AIC; Akaike, 1974)に基づく、シンプルな群発地震検出手法を開発した。そして、その手法を房総半島沖の地震活動に適用した。本発表では、その結果を報告する。
・手法
ETASモデルは、ある時刻tの地震発生レート(t)を、定常的な背景地震発生レート()と、大森・宇津の余震則(e.g., Utsu, 1957)に従う余震発生レート(ti < tKexp{αMi-Mc}/t-ti+cp)の和で表す。ここで、tiとMiは、i番目の地震の発生時刻とマグニチュードである。また、は余震発生レートのマグニチュード依存性、c は地震発生直後の地震発生レートに関係する時定数、Kは余震発生レートの大きさを決める係数、p は余震発生レートの減衰のべき指数、Mcは最小マグニチュードである。モデルパラメータは、, , c, K, pの5つである。
本研究では、Okutani & Ide (2011)により群発地震活動を考慮し改良されたETASモデルを参考に、群発地震発生期間における背景地震発生レートの増分を1(t)として群発地震活動を考慮した新たなモデルを作成した。1(t)は、群発地震により増加した地震の個数(swc)と正規化されたガウス関数(1/2π Tsws2 12 exp{-t-Tswc2/(2 Tsws2)})の積で表す。ここで、Tswcは群発地震中の背景地震発生レートのピーク時刻、Tswsは正規化されたガウス関数の標準偏差であり、swcとTswsは新たなパラメータである。
また、本研究では、群発地震中の背景地震発生レートのピーク時刻Tswcを1日ごとにグリッドサーチを行い、新たなモデルパラメータとした。そして、群発地震を考慮したモデルと、オリジナルのETASモデルのAICの差(ΔAIC)が-2以下になる日付を抽出し、その日付を群発地震中の背景地震発生レートのピークの日付とみなした。パラメータの推定には最尤法を用いた。
・データ
次に本研究は、SSEに伴う群発地震活動の発生が知られている、相模トラフ房総半島沖を中心とした深さ0〜50kmの領域(北緯34.8°から35.6°、東経139.9°から140.9°)において、群発地震検出を実施した。解析期間は2000年1月1日から2010年12月31日の11年間とした。この期間は、2002年10月と2007年8月のSSEに伴う群発地震活動を含む。震源データには気象庁一元化震源カタログを用い、マグニチュード2.0以上の地震を解析に使用した。
・結果
解析の結果、ΔAICが-2以下かつ最小となる日付が16日抽出され、そのうちΔAICが特に大きく減少した日付(-10以下)が5日あった。その5日のうち2日は、2002年と2007年のSSEに伴う群発地震活動に対応した。残り3日は、東京湾と房総半島南東部における狭い領域で発生した群発地震に対応した。これらの群発地震活動は、いずれもフィリピン海プレート上面のプレート境界面付近で発生した。
本手法は、既知の群発地震活動に対応するΔAICの顕著な減少を検出することができた。これは、本手法の有用性を支持する。また、本手法は、先行研究では未報告の群発地震活動に対応するΔAICの減少も検出した。これらの中で、少なくとも3系列の地震活動はより小規模なSSE(Nishimura, 2021)と時空間的に近接して発生していた。加えて、既知のSSEに伴って発生した群発地震と似た震源分布をもつ群発地震系列も検出した。しかし、この地震系列と、時空間的に近接したSSEは報告されていない。新たに検出された群発地震の中には、未報告の小規模なSSEと関連するものが存在する可能性もあり、GNSSデータなどの測地観測データを用いた更なる調査を予定している。
---------- ---------- ---------- ----------
今週のうなぎセミナーについてお知らせいたします。
Here is information of the Unagi-seminar(October, 17).
************** Seminar on Seismology IV B, D /地震学ゼミナールIV B, D (Unagi Seminar) **************
科目:地震学ゼミナールIV B, D / Seminar on Seismology IV B, D(修士・博士)
日時:2024年 10月 17日 (木) 13:30~
場所:京都大学 防災研究所 本館E-232D
Date and Time:2024-10-17, 13:30~
Place:Uji Campus Main Building E232D
---------- ---------- ---------- ----------
Speaker 1: Akifumi TAKAYAMA
Title:
南海トラフ沈み込み帯におけるプレート境界周辺の S 波速度異常域と深部テクトニック微動活動の空間変化との関係
Abstract:
本研究では,理論波形と観測波形のレシーバ関数 (RF) の計算を通じて,南海トラフ沈み込み帯における地震波速度異常域と深部テクトニック微動活動の空間変化との関係を調べることを目的とする.南海トラフ沈み込み帯では,テクトニック微動の放射エネルギー分布の空間変化が観測されている.これまでの研究から,テクトニック微動の発生要因の一つに,S 波速度異常として反映される流体の存在が示唆されている.しかし,プレート境界付近の詳細な S 波速度異常域の分布と,広範囲にわたるテクトニック微動活動の空間変化について言及した研究は少ない.また,テクトニック微動域周辺の詳細な S 波速度異常域の分布について,3次元的な S 波速度異常の分布を考慮した理論 RF と,観測 RF の両者を用いて論じた研究も少ない.したがって,このような研究は,深部スロー地震の発生メカニズムの解明に不可欠である.
南海トラフ沈み込み帯における S 波速度異常域の分布とテクトニック微動活動の空間変化を定量的に評価するため,本研究では遠地地震の直達 P 波到達前後の波形にマルチバンド RF を適用した.マルチバンド RF では,プレート境界面付近の S 波速度の大局的な構造と詳細な構造の両方の情報が得られる.本研究では RF の計算に時間領域反復デコンボリューション法を適用した.この手法においては,ベイズ情報量規準の最小化をイタレーションの終了条件として用いる利点が示されており (Ruan et al., 2023),本研究でもそれに従った.
はじめに,プレート境界付近における観測 RF シグナルの振幅,到達時間,およびそれらの back azimuth 依存性などの特徴と,テクトニック微動活動の空間変化との関係について詳細に調べた.その結果,観測波形から海洋モホ面,大陸モホ面や海洋地殻の低速度帯に関連する RF シグナルを検出した.また,マルチバンド RF の形状の変化は,深部テクトニック微動活動の空間変化と対応する可能性がある.
次に,深部テクトニック微動域直上での観測 RF を説明するプレート境界面周辺の S 波速度異常域の分布を推定するために,理論波形から求めた理論マルチバンド RF と観測 RF を比較した.理論波形の計算には波線理論に基づく手法 (RAYSUM) および3次元有限差分法 (OpenSWPC) を用いた.観測 RF と理論 RF の両方から,深部テクトニック微動活動の空間変化を制約する S 波速度異常や,その分布についても議論を行う.
Speaker 2: 船曵 祐輝
Title:
DAS記録のS/P振幅比による震源メカニズム推定―サイクルスキップを伴う場合―
Estimating Focal Mechanisms Using S/P Amplitude Ratios from DAS Records: A Case of Phase Cycle Skipping
Abstract:
分布型音響センシング、通称DASとは、光ファイバーケーブル内を伝播するレーザー光の後方散乱の位相を測定し、地震波動場によってケーブルに引き起こされる軸ひずみあるいはひずみ速度を計測する新技術であり、近年地震観測にも応用され始めている。DASにおいては、ケーブル自体が歪計として機能し、ケーブル沿いの任意の区間を歪計と同等に扱える。このために、地震計を設置することなく、超高密度に地震波動場を捉えることが可能であり、様々な地震学的観測に応用されることが期待されている。例えば、震源メカニズムによる節線がケーブルのどこを通っているかがDAS観測により判明すれば、従来の地震観測よりはるかに精密に震源メカニズムの推定が可能である。これを利用し、Li et al., 2023では、隣り合う観測チャネルの地震波形同士で相互相関を取ってP波の初動極性を求めることで、震源メカニズムをDAS記録から求めた。ただし、彼らの手法を活用するためには、近傍の観測点で、DASによってP波の波形が明瞭に記録できるほどの複数の地震が発生する必要がある。また、用いるのはP波の極性のみである以上、彼らの手法で分かるのはあくまで「ケーブルのどこを節面が通るか」のみであり、2つある節面がいずれも同定されるか否かは、震源とケーブルの位置関係に依存してしまう。
我々はDAS記録におけるP波とS波の最大振幅比を用いて、単独の地震記録から震源メカニズムを推定した(船曵・宮澤, 2024, JpGU)。国道9号沿いに設置された光ファイバーケーブルを用いてDAS観測を、ゲージ長・空間サンプリング間隔をともに約5m、時間サンプリング間隔を500Hzとして行った。その結果、2022年10月19~20日に京都西山断層帯にて発生した地震がDASにより観測された。観測された地震波形のうち、P波・S波がいずれも明瞭に記録されており、全てのチャネルでサイクルスキップを起こしていない、10月19日の11時54分に発生したM2.2の地震と、同日15時34分に発生したM2.3の地震 (以下、M2.2、M2.3と呼称)からP波・S波それぞれの最大振幅を計測し、得られた最大振幅の比を最もよく説明する震源メカニズム解をグリッドサーチによって求めた。同時に、従来の地震観測点によるP波の初動極性を手動ピッキングにより得た。その結果、DAS記録のSP振幅比による震源メカニズムは左横ずれ型となり、これは従来の地震観測点によるP波の初動極性と極めてよく一致した。
本研究では、サイクルスキップが含まれる場合の対処方法の検討と震源メカニズム推定を行った。DASは後方散乱の位相を測定しているため、-πから+πまでしか測定できず、DASの生記録における最大振幅が実際の最大振幅と一致するとは限らない。仮にこれ以上の位相変化を求めるためには±2nπの補正(アンラップ)が必要である。
2022年の観測により記録された地震波形のうち、10月19日の11時00分に発生したM3.2の地震と、同日11時02分に発生したM3.4の地震は、少なくとも1000点の観測チャネルにおいてサイクルスキップを起こしていることが判明しており、船曵・宮澤(2024)の振幅比による震源メカニズム決定の手法をただ導入するだけでは、震源メカニズムは推定できない。そこで、サイクルスキップを起こしたチャネルを除外し、残りのチャネルから震源メカニズムを推定することとした。
サイクルスキップを起こしたチャネルの同定は次のように行った。まず、各チャネルのS到達時刻の0.5秒前から2秒後の記録に対し、連続する時刻の間でπ以上の位相差が発生している時刻をサイクルスキップが発生している時刻の候補とした。これらの候補を有するチャネルのうち、連続する時刻の間で、後の時刻が前の時刻に比べて+π以上跳ぶ、「正の位相のサイクルスキップ」と、後の時刻が前の時刻に比べて-π以下の跳びが発生する「負の位相のサイクルスキップ」が両方存在し、なおかつ「正の位相のサイクルスキップ」と「負の位相のサイクルスキップ」の時刻の時刻差の最小値が、サイクルスキップの候補が一切ないチャネルの見かけの半周期の最大値を下回るチャネルについて、サイクルスキップを起こしているものと見なし、除外した。上記の要領で除外されたチャネルを除くチャネルのDAS記録について、M2.2やM2.3の地震に対し適用したのと同様に、実体波振幅比から震源メカニズムを推定し、P波の初動分布と比較した。その結果、M3.2、M3.4いずれの地震についても左横ずれ型の震源メカニズムを示した。これは、この地域における典型的な地震活動であり、従来の地震観測点のP波初動極性による震源メカニズムとも一致した。
Speaker 3: Kai Koyama
Title:
統計モデルを用いた大地震前の前震活動加速現象に関する全世界的調査
Global investigation of foreshock acceleration prior to large earthquakes
Abstract:
大地震の前駆現象に関する研究は、地震の予測可能性を議論する上で極めて重要である。特に、大地震前に発生する前震活動は、これまで活発に研究されてきた。例えば、Bouchon et al. (2013)は、環太平洋のプレート境界で発生する大地震多くで、その直前に前震発生数が加速度的に増加したと主張した。また、Nishikawa & Ide (2018)は、2008年に茨城県沖で発生したM6.9のプレート境界地震の数日前に、加速的な前震の群発活動があったと報告している。さらに、数値シミュレーションや室内岩石実験においても、大地震の直前に前震発生数が加速度的に増加することが示唆されている(McLaskey, 2019; Ito & Kaneko, 2023など)。しかし、Bouchon et al. (2013)に関しては、地震活動のクラスタリングの影響を十分に考慮できていないことなどが、その後、批判されている(Felzer et al., 2015)。また、Nishikawa & Ide (2018)も、解析対象が茨城県沖の地震活動に限られており、同様の加速現象が、他の大地震においてどの程度一般的であるのかは不明である。
そこで、本研究では、世界標準の地震活動統計モデルであるETASモデル(Ogata, 1988)を用いて、大地震前の前震活動について全世界的調査を実施した。前震活動を評価するために、数値シミュレーションや岩石実験の結果を参考に、大地震前の前震活動の加速を表す項(=L/(Teq - t + d)q)をETASモデルに新たに加えた。この項は、逆大森則に類似しており、大地震(本震)発生時刻に至るまでの地震発生レートの加速を記述する。ここで、tは時刻、Teqは本震発生時刻、L, d, qは新たなモデルパラメータである。
さらに、本研究では、上記のモデルに基づき、前震活動の特徴を定量化する新たな指標を定義した。まず、地震発生時刻における地震発生レート(定常な背景レート、余震発生レート、前震発生レートの合計)のうちの前震項の割合を評価することで、「前震確率」(各地震が前震項から生じた確率)を定義し、それを各地震に対して計算した。次に、計算された前震確率が50%を上回る地震を前震と定義し、その個数を「前震個数」とした。また、本震発生時刻から遡り、全前震の半数が含まれる期間を「前震50%期間」と定義し、前震活動を特徴づける時定数とみなした。以降の解析では、前震個数と前震50%期間を用いて、前震活動を定量化する。
本研究では、上記の新たなモデルと指標を、ANSS地震カタログに記載されている、2000年から2024年に発生した全世界のM6.5以上の大地震(366個)に適用した。具体的には、大地震の震央から100km以内で、大地震前の10年以内に発生したM4.5以上の地震の活動を解析した。ここで、解析対象とは別の大地震の余震活動による影響を排除するため、Maeda (1996)の余震活動継続時間に関する式を用いて、対象の大地震が、それよりも大きな地震の余震活動期間内に発生していた場合は、解析から除外した。
その結果、366個の大地震のうち、18個(約4.5%)の大地震の前に、前震活動の加速現象と解釈できる活動が観察された。ここでは、前震個数が5個以上、前震50%期間が10日未満となった前震活動を、顕著な加速を示すものと評価した。例えば、Nishikawa & Ide (2018)で解析された、日本海溝沈み込み帯における2008年の茨城県沖の地震や、2008年にバヌアツ沈み込み帯で発生したM7.3のプレート境界地震は、特に顕著な前震活動の加速を示した。2008年の茨城県沖の地震は前震個数15個、前震50%期間0.025日を記録し(L=0.42, d=0.042日, q=2.1)、2008年のバヌアツの地震は前震個数10個、前震50%期間0.05日を記録した(L=0.73, d=0.061日, q=1.7)。また、バヌアツ沈み込み帯では、前震活動の加速現象と解釈できる現象が、他にも多数見られた。
上記の解析に加えて、地震活動の加速現象が大地震前に特有の現象であるか検証するために、小地震前の地震活動に対しても同様の解析を現在実施している。また、加速現象の偶然性を評価するため、ETASモデルから合成された地震カタログに対しても同様の解析を実施予定である。
以上のように、本研究は、前震活動の特徴を定量化し、評価するための新たな解析の枠組みを提案するとともに、全世界の前震活動の特徴を明らかにするものである。
Speaker 4: Ryo Yoshimura
Title:
房総半島沖における群発地震検出と小規模なスロースリップとの関連の調査
Detection of earthquake swarms off the Boso Peninsula and investigation of the association with small slow slip events
Abstract:
・はじめに
明確な本震を伴わない地震発生レートの増加を群発地震と呼ぶ(e.g., Mogi, 1963)。群発地震は、火山活動が活発な地域や沈み込み帯、トランスフォーム断層など、陸海域問わず様々な場所で発生する。群発地震は、地殻流体の移動やスロースリップイベント(SSE)等の過渡的な非地震性現象によって引き起こされるとされ(e.g., Nishikawa & Nishimura, 2023)、群発地震の検出は、非地震性現象と地震活動の関係を明らかにする上で重要である。
本研究は、ETASモデル(Ogata, 1988; Okutani & Ide, 2011)と赤池情報量規準(AIC; Akaike, 1974)に基づく、シンプルな群発地震検出手法を開発した。そして、その手法を房総半島沖の地震活動に適用した。本発表では、その結果を報告する。
・手法
ETASモデルは、ある時刻tの地震発生レート(t)を、定常的な背景地震発生レート()と、大森・宇津の余震則(e.g., Utsu, 1957)に従う余震発生レート(ti < tKexp{αMi-Mc}/t-ti+cp)の和で表す。ここで、tiとMiは、i番目の地震の発生時刻とマグニチュードである。また、は余震発生レートのマグニチュード依存性、c は地震発生直後の地震発生レートに関係する時定数、Kは余震発生レートの大きさを決める係数、p は余震発生レートの減衰のべき指数、Mcは最小マグニチュードである。モデルパラメータは、, , c, K, pの5つである。
本研究では、Okutani & Ide (2011)により群発地震活動を考慮し改良されたETASモデルを参考に、群発地震発生期間における背景地震発生レートの増分を1(t)として群発地震活動を考慮した新たなモデルを作成した。1(t)は、群発地震により増加した地震の個数(swc)と正規化されたガウス関数(1/2π Tsws2 12 exp{-t-Tswc2/(2 Tsws2)})の積で表す。ここで、Tswcは群発地震中の背景地震発生レートのピーク時刻、Tswsは正規化されたガウス関数の標準偏差であり、swcとTswsは新たなパラメータである。
また、本研究では、群発地震中の背景地震発生レートのピーク時刻Tswcを1日ごとにグリッドサーチを行い、新たなモデルパラメータとした。そして、群発地震を考慮したモデルと、オリジナルのETASモデルのAICの差(ΔAIC)が-2以下になる日付を抽出し、その日付を群発地震中の背景地震発生レートのピークの日付とみなした。パラメータの推定には最尤法を用いた。
・データ
次に本研究は、SSEに伴う群発地震活動の発生が知られている、相模トラフ房総半島沖を中心とした深さ0〜50kmの領域(北緯34.8°から35.6°、東経139.9°から140.9°)において、群発地震検出を実施した。解析期間は2000年1月1日から2010年12月31日の11年間とした。この期間は、2002年10月と2007年8月のSSEに伴う群発地震活動を含む。震源データには気象庁一元化震源カタログを用い、マグニチュード2.0以上の地震を解析に使用した。
・結果
解析の結果、ΔAICが-2以下かつ最小となる日付が16日抽出され、そのうちΔAICが特に大きく減少した日付(-10以下)が5日あった。その5日のうち2日は、2002年と2007年のSSEに伴う群発地震活動に対応した。残り3日は、東京湾と房総半島南東部における狭い領域で発生した群発地震に対応した。これらの群発地震活動は、いずれもフィリピン海プレート上面のプレート境界面付近で発生した。
本手法は、既知の群発地震活動に対応するΔAICの顕著な減少を検出することができた。これは、本手法の有用性を支持する。また、本手法は、先行研究では未報告の群発地震活動に対応するΔAICの減少も検出した。これらの中で、少なくとも3系列の地震活動はより小規模なSSE(Nishimura, 2021)と時空間的に近接して発生していた。加えて、既知のSSEに伴って発生した群発地震と似た震源分布をもつ群発地震系列も検出した。しかし、この地震系列と、時空間的に近接したSSEは報告されていない。新たに検出された群発地震の中には、未報告の小規模なSSEと関連するものが存在する可能性もあり、GNSSデータなどの測地観測データを用いた更なる調査を予定している。
---------- ---------- ---------- ----------
© Research Center for Earthquake Hazards.
© Research Center for Earthquake Hazards.