更新日:2023.02.09
Updated: 2023.02.09
下記の通り、本年度地震災害研究センター客員教授の小原先生(東京大学)による集中講義を開催いたします。
皆様のご参加お待ちしております。
講 師:小原 一成 先生(東京大学地震研究所・教授 / 地震災害研究センター客員教授)
場 所:京都大学防災研究所 連携研究棟301号室(大セミナー室)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_uji.html
(構内マップ中の77番の建物です。)
日 程:2022年2月14日(火)・15日(水)
2月14日 午後1時30分から3時 集中講義
2月15日 午前10時30分から12時 特別セミナー
タイトル「通常とは異なるスロー地震活動とは何か」
要旨
南海トラフの大地震の切迫性が高まった可能性があると判断される場合、南海トラフ地震臨時情報が発出される仕組みが構築されている。その臨時情報の契機の一つとして、「通常とは異なるゆっくりすべり」の発生可能性が挙げられるが、その具体的基準はまだ明確ではない。そこで、本講演では「ゆっくりすべり」を「スロー地震」全体に拡張したうえで、「通常とは異なるスロー地震活動」とは何か、その判断に対して今の地震学の知見からどこまで貢献できるのか、さらに、今後我々はスロー地震の何を明らかにしなければならないのかについて考察する。
ここで扱うスロー地震は、「長期的スロースリップイベント(SSE)」、「短期的SSE」、「超低周波地震(VLF)」、「低周波微動」から構成される。なお、スロー地震ファミリーとしての統一性を示すため、すべての現象に「スロー」を意味するキーワードが付されている。このうち、短期的SSEとVLF・低周波微動はEpisodic Tremor and Slip(ETS)として時空間的に同時発生すること、ETSは長期的SSEとは棲み分けるがそのすべり面からの距離に応じた影響を受けることなどが知られている。
Obara&Kato(2016, Science)によって指摘されたスロー地震と大地震との関連性やこれまでのスロー地震に関する研究成果を踏まえると、「通常とは異なるスロー地震活動」を評価するにあたり、次の3つの観点が重要である。
・Stress transfer(応力載荷):スロー地震によって再配分された応力が固着域に載荷されて大地震を促進する可能性。
・Stress meter(応力指標):大地震発生域内の応力集中による影響でスロー地震の活動様式が変化する可能性。つまり、スロー地震活動の変化が大地震の切迫度を反映する指標として利用できる可能性。
・Creep meter(すべり指標):小繰り返し地震(RE)と同様にプレート間すべりを反映する指標としてスロー地震を扱える可能性。
Stress transferの観点では、SSEの規模が評価項目として挙げられる。その物理的根拠はSSEによる応力再配分であるが、具体的な評価対象を個々のSSE規模とするか、あるいは積算規模またはその変化率とするかについては検討が必要である。もちろん、いずれの場合にも適切な基準値の設定が必要不可欠であることは言うまでもない。また、SSEのプロキシとしての低周波微動やVLFの活動度変化も評価項目として利用可能である。特に、SSEの規模が小さく地殻変動としての直接計測が困難な場合は、これらのサイスミックなスロー地震による評価が重要である。これまで、低周波微動やVLFの活動度とSSE規模の関係性については、エピソード内の微動の数や継続時間と短期的SSEのモーメントとの線形性が議論されたが(Aguiar et al., 2009; Obara, 2010)、今後はより物理的量である微動エネルギーやVLFモーメントを用いるのが適切である。なお、これらのサイスミックなスロー地震の規模とSSEモーメントとの関係は地域依存性を有することが知られており、そのような不均質性の原因の解明はスロー地震の理解においても重要である。
Creep meterの観点では、REと同様に、各スロー地震がその震源域の周囲におけるすべりが進行する中での遅れ破壊との解釈に基づき、スロー地震活動度がプレート境界すべりを反映する評価項目となる。もちろん、各スロー地震の規模の定量的評価が重要であることは言うまでもない。
Stress meterとしては、活動間隔や移動パターンなど、スロー地震におけるあらゆる活動様式が評価項目となりうる。例えば、深部ETSはセグメントごとにある程度固有の活動間隔や移動方向を有しているが、それらの特徴がこれまでの平均的描像からずれることがあれば、通常とは異なる状況を示していると言えるかもしれない。実際に、短期的・長期的SSEと巨大地震を含めた数値シミュレーション研究では、巨大地震発生前にSSEの発生間隔が経年的に減少する結果が得られている(Matsuzawa et al., 2010)。しかし、スロー地震の様々な活動様式に関する観測事実はまだ十分に蓄積されておらず、物理的根拠も明確ではない。したがって、まずは各種スロー地震を確実に検出し、高精度なカタログを構築して、各スロー地震現象の様々な活動様式を明らかにし、通常と非通常を統計的に区別できるようにモニタリング研究を進めることが期待される。
下記の通り、本年度地震災害研究センター客員教授の小原先生(東京大学)による集中講義を開催いたします。
皆様のご参加お待ちしております。
講 師:小原 一成 先生(東京大学地震研究所・教授 / 地震災害研究センター客員教授)
場 所:京都大学防災研究所 連携研究棟301号室(大セミナー室)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_uji.html
(構内マップ中の77番の建物です。)
日 程:2022年2月14日(火)・15日(水)
2月14日 午後1時30分から3時 集中講義
2月15日 午前10時30分から12時 特別セミナー
タイトル「通常とは異なるスロー地震活動とは何か」
要旨
南海トラフの大地震の切迫性が高まった可能性があると判断される場合、南海トラフ地震臨時情報が発出される仕組みが構築されている。その臨時情報の契機の一つとして、「通常とは異なるゆっくりすべり」の発生可能性が挙げられるが、その具体的基準はまだ明確ではない。そこで、本講演では「ゆっくりすべり」を「スロー地震」全体に拡張したうえで、「通常とは異なるスロー地震活動」とは何か、その判断に対して今の地震学の知見からどこまで貢献できるのか、さらに、今後我々はスロー地震の何を明らかにしなければならないのかについて考察する。
ここで扱うスロー地震は、「長期的スロースリップイベント(SSE)」、「短期的SSE」、「超低周波地震(VLF)」、「低周波微動」から構成される。なお、スロー地震ファミリーとしての統一性を示すため、すべての現象に「スロー」を意味するキーワードが付されている。このうち、短期的SSEとVLF・低周波微動はEpisodic Tremor and Slip(ETS)として時空間的に同時発生すること、ETSは長期的SSEとは棲み分けるがそのすべり面からの距離に応じた影響を受けることなどが知られている。
Obara&Kato(2016, Science)によって指摘されたスロー地震と大地震との関連性やこれまでのスロー地震に関する研究成果を踏まえると、「通常とは異なるスロー地震活動」を評価するにあたり、次の3つの観点が重要である。
・Stress transfer(応力載荷):スロー地震によって再配分された応力が固着域に載荷されて大地震を促進する可能性。
・Stress meter(応力指標):大地震発生域内の応力集中による影響でスロー地震の活動様式が変化する可能性。つまり、スロー地震活動の変化が大地震の切迫度を反映する指標として利用できる可能性。
・Creep meter(すべり指標):小繰り返し地震(RE)と同様にプレート間すべりを反映する指標としてスロー地震を扱える可能性。
Stress transferの観点では、SSEの規模が評価項目として挙げられる。その物理的根拠はSSEによる応力再配分であるが、具体的な評価対象を個々のSSE規模とするか、あるいは積算規模またはその変化率とするかについては検討が必要である。もちろん、いずれの場合にも適切な基準値の設定が必要不可欠であることは言うまでもない。また、SSEのプロキシとしての低周波微動やVLFの活動度変化も評価項目として利用可能である。特に、SSEの規模が小さく地殻変動としての直接計測が困難な場合は、これらのサイスミックなスロー地震による評価が重要である。これまで、低周波微動やVLFの活動度とSSE規模の関係性については、エピソード内の微動の数や継続時間と短期的SSEのモーメントとの線形性が議論されたが(Aguiar et al., 2009; Obara, 2010)、今後はより物理的量である微動エネルギーやVLFモーメントを用いるのが適切である。なお、これらのサイスミックなスロー地震の規模とSSEモーメントとの関係は地域依存性を有することが知られており、そのような不均質性の原因の解明はスロー地震の理解においても重要である。
Creep meterの観点では、REと同様に、各スロー地震がその震源域の周囲におけるすべりが進行する中での遅れ破壊との解釈に基づき、スロー地震活動度がプレート境界すべりを反映する評価項目となる。もちろん、各スロー地震の規模の定量的評価が重要であることは言うまでもない。
Stress meterとしては、活動間隔や移動パターンなど、スロー地震におけるあらゆる活動様式が評価項目となりうる。例えば、深部ETSはセグメントごとにある程度固有の活動間隔や移動方向を有しているが、それらの特徴がこれまでの平均的描像からずれることがあれば、通常とは異なる状況を示していると言えるかもしれない。実際に、短期的・長期的SSEと巨大地震を含めた数値シミュレーション研究では、巨大地震発生前にSSEの発生間隔が経年的に減少する結果が得られている(Matsuzawa et al., 2010)。しかし、スロー地震の様々な活動様式に関する観測事実はまだ十分に蓄積されておらず、物理的根拠も明確ではない。したがって、まずは各種スロー地震を確実に検出し、高精度なカタログを構築して、各スロー地震現象の様々な活動様式を明らかにし、通常と非通常を統計的に区別できるようにモニタリング研究を進めることが期待される。
© Research Center for Earthquake Hazards.
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